【目次】
1. 本研究のポイント
2. 製造課題|従来MEMS加工や一般的な3Dプリントでは難しい理由
3. BMFの役割|PµSLによるヒゲ構造と内部流路付きFSC基部の造形
4. 検証結果|形状再現性がセンサ性能に与えた影響
5. この事例が示すマイクロ3Dプリントの応用可能性
6. 関連応用事例
7. MEMS・微細流路・生物模倣構造の試作相談
MEMSフローセンサの研究開発では、微小な流れを高感度に検出するだけでなく、センサ自身が流体中で発生させる振動ノイズをいかに抑えるかが重要です。特に、水中ロボット、海洋計測、流体制御デバイス、生物模倣型センサの分野では、検出部の三次元形状そのものが、信号品質やSNR(signal-to-noise ratio)に大きく影響します。
オランダのフローニンゲン大学(University of Groningen)の研究チームは、アザラシのヒゲが持つ特殊な三次元形状に着目し、生物模倣型MEMSフローセンサを開発しました。本研究成果は、論文「Seal whisker-inspired fully printed MEMS flow sensor via micron-scale soft material additive manufacturing」として、学術誌 Microsystems & Nanoengineering に発表されています。
本研究では、BMFの投影マイクロ光造形技術PµSL(Projection Micro Stereolithography)を搭載した microArch® S240 が使用されました。実際のゼニガタアザラシ(Harbor seal)、ハイイロアザラシ(Gray seal)、カリフォルニアアシカ(Sea lion)のヒゲ形状をもとにした構造と、内部流路を備えた人工FSC(follicle-sinus complex)センサ基部が造形されています。

図1:アザラシのヒゲ模倣構造と内部流路付き人工FSCセンサ基部の3Dプリント構造。
出典:Tekin et al., Microsystems & Nanoengineering, 2026.
本研究のポイント
l 実物由来のヒゲ形状を再現
ゼニガタアザラシとハイイロアザラシのヒゲを3Dスキャンし、波状構造、楕円断面、テーパー形状を再現。
l PµSLで複雑な三次元構造を造形
BMF microArch® S240により、従来の平面的なMEMS加工では難しい非平面形状の評価を可能にしました。
l 内部流路付きFSCセンサ基部を製作
センサ基部には、GNP(グラフェンナノプレートレット)インクを導入するための500µm角の微細流路が設けられました。
l ピエゾ抵抗型センシング要素を形成
造形後、GNPインクを内部流路へ毛細管現象で導入し、機械的変形を電気信号として検出する構造を構成しました。
l センサ性能を実験的に検証
ゲージファクターは引張側で16.57、圧縮側で10.67。3000回の繰り返し荷重下でも安定した応答が確認されました。
l 微小振動とSNRを検証
15Hz条件で0.5µmの微小振動を検出し、0.5µm振幅条件で最大70Hzまで応答。ゼニガタアザラシ型・ハイイロアザラシ型構造は、滑らかなアシカ型構造に比べて約5〜10倍高いSNRを示しました。
製造課題|従来MEMS加工や一般的な3Dプリントでは難しい理由
アザラシのヒゲは単純な円柱ではなく、楕円断面と波状構造を持つ複雑な三次元形状です。この形状は、流体中で発生する渦励振(VIV:vortex-induced vibration)を抑え、外部の物体が作る航跡誘起振動(WIV:wake-induced vibration)を検出しやすくすると考えられています。
しかし、従来のMEMS製造で用いられるフォトリソグラフィやエッチングは、平面的な微細加工には適している一方、非平面・波状・テーパー形状をそのまま再現するには制約があります。
さらに、人工FSCセンサ基部には、柔軟性、形状安定性、内部流路形成のすべてが求められました。一般的な3Dプリントでは、微細な中空流路の形成や、柔軟材料での高精度造形に課題が残ります。
BMFの役割|PµSLによるヒゲ構造と内部流路付きFSC基部の造形
研究チームは、これらの製造課題に対してBMFのmicroArch® S240を採用しました。
PµSL技術により、ゼニガタアザラシ、ハイイロアザラシ、カリフォルニアアシカのヒゲ形状をもとにした試験用モデルを造形。種ごとの波状構造と楕円断面を再現することで、ヒゲ形状の違いがVIV抑制やSNRに与える影響を比較できるようになりました。
また、人工FSCセンサ基部には、ヒゲ構造を固定するための溝、GNPインク導入用の内部流路、インク導入口、電気的接続部が組み込まれています。研究チームは、PDMS-like resinとBMFのUTL樹脂を70:30の体積比でブレンドしたカスタム弾性樹脂を使用し、柔軟性と造形安定性の両立を図りました。
BMFの役割は、単なる外形試作ではありません。複雑な生物模倣形状と、機能材料を導入するための内部微細構造を成立させたことが、センサ性能評価の前提条件になっています。

図2:人工FSCセンサ基部の内部流路へGNPインクを毛細管現象で導入する様子。
出典:Tekin et al., Microsystems & Nanoengineering, 2026.
検証結果|形状再現性がセンサ性能に与えた影響
完成したセンサは、静的評価、繰り返し荷重試験、動的応答評価、風洞および水流環境での流体実験によって検証されました。
主な検証結果は次の通りです。
l 高感度かつ安定したピエゾ抵抗応答
人工FSC基部のGNPピエゾ抵抗要素は、引張側で16.57、圧縮側で10.67のゲージファクターを示しました。また、3000回の繰り返し荷重下でも安定した出力応答が確認されました。
l 0.5µmの微小振動と最大70Hzまでの応答を確認
センサは15Hz条件で0.5µmの微小振動を検出し、0.5µm振幅条件で最大70Hzまで応答しました。これにより、低振幅の流体由来振動を検出する基礎性能が示されました。
l アザラシ型ヒゲ構造によりSNR向上
水流実験では、ゼニガタアザラシ型およびハイイロアザラシ型の構造が、滑らかなアシカ型構造に比べて約5〜10倍高いSNRを示しました。
これらの結果は、微細な三次元形状の再現性が、単なる外観再現ではなく、MEMSフローセンサの感度、耐久性、ノイズ抑制、信号品質に関わる重要な要素であることを示しています。

図3:人工FSCセンサ基部のゲージファクター、3000回耐久性、0.5µm振動検出、70Hz応答の評価結果。
出典:Tekin et al., Microsystems & Nanoengineering, 2026.
この事例が示すマイクロ3Dプリントの応用可能性
本事例は、MEMSフローセンサに限らず、複雑な三次元微細構造を必要とする研究開発に参考になります。
特に、以下のような開発課題に有効です。
· 生物模倣構造のプロトタイピング
· 微細流路を含むマイクロデバイスの試作
· 柔軟構造を含むセンサ・アクチュエータの機能検証
· 機能材料の後工程導入を前提とした構造設計
· 従来MEMS加工では難しい非平面三次元構造の評価
BMFのmicroArch®シリーズは、2µm、10µm、25µmクラスの光学解像度ラインナップにより、研究開発、精密試作、小ロット生産における微細構造の造形を支援します。形状精度が実験結果に影響するセンサ、マイクロ流路、マイクロニードル、光学部品、生物模倣構造などの用途で、設計自由度と微細加工精度の両立を可能にします。
関連応用事例
BMFのマイクロ3Dプリント技術は、MEMSフローセンサ以外にも、生物模倣構造、微細流路、機能性表面構造の研究開発に活用されています。
マイクロ流体向け3Dプリント微細構造|液体方向制御のPµSL応用事例
バイオミメティクス3Dプリント×微細構造|防水・防雪機能を検証するPµSL応用事例
MEMS・微細流路・生物模倣構造の試作相談
MEMSセンサやマイクロ流体デバイスの研究開発では、「形状を作れるか」だけでなく、その形状が実験結果やシミュレーション結果を再現できる精度で造形できるかが重要です。
BMF Japanでは、マイクロ3Dプリント技術を活用し、研究開発段階の微細構造試作、内部流路付き部品、生物模倣構造、精密治具、機能評価用プロトタイプの造形を支援しています。
複雑な三次元微細構造の試作や、既存工法では再現が難しいMEMSスケール部品の開発でお困りの場合は、図面・3Dデータ・用途要件をもとに、適した造形方式や機種選定をご提案いたします。
参考論文

