【目次】
1. 生物模倣3Dプリントで微細構造を再現する意義
2. 防水微細構造の事例|テントウムシ鞘翅のカップリング構造
3. 防雪微細溝構造の事例|タケ葉に着想を得た機能性表面
4. PµSL精密3Dプリントが機能性表面の研究開発に貢献する理由
5. 生物模倣微細構造の試作・機能評価でお困りの場合
自然界には、水滴をはじく昆虫の外殻、雪が付着しにくい植物の葉、流体抵抗を制御する生物表面など、工学設計のヒントとなる微細構造が数多く存在します。こうした構造を研究開発に活用するバイオミメティクス3Dプリントでは、生物の形を観察するだけでなく、その構造を人工的に再現し、機能として検証することが重要です。
しかし、生物由来の微細構造は、曲面、微小ギャップ、周期的な溝、複雑な凹凸を含むことが多く、従来加工や一般的な3Dプリントでは再現が難しい場合があります。特に、防水・防雪・撥水・防氷などの機能性表面では、数十から数百μmスケールの形状差が性能評価に直接影響します。
本記事では、BMFのPµSL精密3Dプリント技術を活用したバイオミメティクス微細構造の応用例として、テントウムシ鞘翅の防水カップリング構造と、タケ葉由来の防雪微細溝構造に関する2つの研究事例を紹介します。共通しているのは、自然界の微細構造を観察対象として扱うだけでなく、比較実験に使える人工モデルへ変換し、機能発現の仕組みを検証している点です。
生物模倣3Dプリントで微細構造を再現する意義
バイオミメティクス研究では、観察した生物構造をそのまま模倣するだけでは十分ではありません。どの形状要素が機能に寄与しているのかを明らかにするには、構造の有無、寸法、角度、ギャップ、ピッチなどを変えた比較モデルを作製し、実験条件下で評価する必要があります。
たとえば、防水機能を検証する場合は、微小な接合部から液体が侵入するかどうかを確認する必要があります。防雪機能を検証する場合は、雪が付着しにくいだけでなく、自重で滑落しやすい表面形状かどうかも評価しなければなりません。
このような研究では、「形状を作れるか」だけでなく、「機能評価に使える精度で再現できるか」が重要になります。BMFのPµSL技術は、微細な溝、突起、ギャップ、複雑曲面を含む構造を高精度に造形できるため、生物模倣微細構造の研究開発や機能検証に適しています。
防水微細構造の事例|テントウムシ鞘翅のカップリング構造
テントウムシは、雨滴にさらされる環境でも体内や後翅を保護する必要があります。研究チームは、左右の鞘翅を連結するカップリング構造に着目し、この微細な接合部が防水シールとしてどのように機能しているのかを調べました。
対象となった研究は、論文「Water-proofing mechanism of coupling structures observed in ladybird elytra and its bionic application」として、学術誌 Droplet に掲載されています。
テントウムシの鞘翅は、開閉できる構造でありながら、閉じた状態では雨滴の侵入を防ぐ必要があります。カップリング部は、ほぞと溝のような構造で左右の鞘翅を結合し、微小な隙間を保ちながら液体の侵入を抑えています。
研究では、高速度カメラを用いて水滴が鞘翅に衝突する様子を観察しました。鞘翅表面における水滴の平均接触角は109.23 ± 5.31度で、撥水性を示しています。また、水滴衝突によって発生する力は、テントウムシの体重の約600倍に相当すると評価されました。
自然状態の鞘翅では、強い水滴衝突を受けても後翅への液体侵入が抑えられました。一方、カップリング構造を除去した場合には、鞘翅内側や後翅表面に染色液の侵入が確認されています。つまり、防水性は単なる表面の撥水性だけでなく、左右の鞘翅を結合する微細構造にも支えられていることが示されました。

図1:水滴とテントウムシ鞘翅カップリング構造との衝突挙動
出典:Zhang et al., Droplet, 2025
PµSLによる比較モデル作製と防水機能の検証
この防水メカニズムを人工モデルで検証するため、研究チームは鞘翅形状をもとに比較モデルを設計しました。BMFのmicroArch S130を用いて感光性樹脂による3Dプリントモデルを作製し、カップリング構造の有無によって水の侵入挙動がどのように変化するかを比較しています。BMFのmicroArchシリーズは、微細構造や精密部品の研究開発・試作に活用されており、2µm光学解像度に対応する機種も展開しています。
ここで重要なのは、PµSLが単なる外観模型の作製ではなく、機能検証に必要な比較モデルを成立させている点です。微細な接合形状を人工的に再現することで、カップリング構造の有無が防水性に与える影響を実験的に確認できるようになりました。
実際の比較モデルでは、カップリング構造を持つモデルの内部に配置したpH指示紙は変色せず、防水性が維持されました。一方、構造を持たないモデルでは液体が内部へ侵入し、指示紙の変色が確認されています。
この事例は、開閉可能な防水カバー、展開型保護構造、長い接合線を持つ屋外機器、可動部を含むシール構造などの設計に参考となります。

図2:3Dプリント比較モデルによる防水性の検証
出典:Zhang et al., Droplet, 2025
防雪微細溝構造の事例|タケ葉に着想を得た機能性表面
もう一つの事例では、雪が付着しにくい植物表面に着目しています。太陽光パネル、風力発電ブレード、橋梁ケーブル、屋外カメラなど、屋外で長期間使用される設備では、着雪や積雪による性能低下、保守負荷、停止リスクが課題になります。
この研究は、論文「A Bioinspired Micro-Grooved Structure for Low Snow Adhesion and Effective Snow-Shedding」として、学術誌 Advanced Materials に掲載されました。
防雪表面で難しいのは、水や氷をはじく表面が、必ずしも雪を自然に滑落させるとは限らない点です。雪は氷粒子、空気、液体水を含む複合体であり、特に0度付近の湿雪では、界面の液体水によって毛細管力が発生し、表面に強く付着します。
さらに、粗い超撥水表面では、表面の微細な凹凸が雪粒子と噛み合い、雪の滑落を妨げる場合があります。そのため、防雪表面では、雪と表面の接触面積を減らすことに加え、滑落方向の機械的抵抗を抑える表面設計が求められます。

図3:タケ葉に着想を得た低雪付着表面の評価
出典:Yan et al., Advanced Materials, 2025
微細溝構造の試作と雪付着・滑落性の評価
研究チームは、タケ葉に見られる周期的な溝構造を参考に、V字型の微細溝構造を設計しました。BMFの高精度3Dプリントシステムにより、溝深さ30から500μm、溝間隔100から1000μmの複数サンプルが作製されています。
この試作により、溝の深さ、間隔、S/H比が雪付着力や自然滑落性に与える影響を体系的に評価できるようになりました。微細溝構造では、数十から数百μmの寸法差が、雪と表面の実接触面積、水分の分布、機械的インターロッキングに影響します。そのため、形状パラメータを安定して再現できることが、評価結果の信頼性に直結します。
実験では、微細溝構造が雪と固体表面の実接触面積を減らし、ファンデルワールス力と毛細管力を低減することが示されました。V字型の溝は、界面に存在する水分を溝底へ導き、固液界面の分離を促すことで、湿雪の付着を抑えます。

図4:バイオミメティック微細溝構造における雪の付着挙動
出典:Yan et al., Advanced Materials, 2025
条件によっては雪付着力が約30Paまで低下し、平滑面と比較して大幅な低減が確認されました。また、45度の傾斜条件では、微細溝構造上の雪が3分以内に自重で滑落しました。一方、超撥水表面では、付着力自体は低くても、表面粗さと雪粒子の噛み合いによって自然滑落が妨げられることが確認されています。
この結果は、防雪表面の開発では「雪が付きにくい」だけでなく、「雪が落ちやすい」構造を同時に評価する必要があることを示しています。太陽光パネル、風力発電、屋外センサ、寒冷地向け筐体など、雪の付着が機能低下につながる分野において、微細溝構造の設計は有効な研究テーマとなります。

図5:バイオミメティック微細溝構造における雪の脱離挙動
出典:Yan et al., Advanced Materials, 2025
PµSL精密3Dプリントが機能性表面の研究開発に貢献する理由
テントウムシ鞘翅の防水構造と、タケ葉由来の防雪微細溝構造は、対象とする機能も応用先も異なります。しかし、研究開発プロセスには共通点があります。
どちらの研究でも、自然界の微細構造を観察し、機能に関係する形状要素を抽出し、人工モデルとして再現し、比較実験によって検証しています。この過程で必要になるのは、単に形を作ることではなく、機能評価に耐える精度で微細構造を再現することです。
BMFのPµSL精密3Dプリント技術は、こうした研究開発段階の試作において、次のような価値を発揮します。
生物模倣構造の評価用プロトタイプ作製
微細溝、微小ギャップ、微小突起を含む機能性表面の試作
防水、防雪、撥水、防氷、摩擦低減などの表面機能評価
形状パラメータを変えた比較サンプルの作製
従来加工では再現が難しい複雑3D微細構造の検証
研究成果を次の設計検討へ進めるための初期試作
バイオミメティクス3Dプリントは、自然界の形状をそのまま模倣するためだけの手段ではありません。観察した構造を、設計可能・比較可能・評価可能な工学モデルへ変換し、研究開発の判断材料を得るための技術です。
生物模倣微細構造の試作・機能評価でお困りの場合
BMF Japanでは、PµSL精密3Dプリント技術を活用し、研究開発向けの微細構造、機能性表面、マイクロ流路、精密部品、評価用プロトタイプの造形を支援しています。
自然界の構造を参考にした試作、微細溝や微小突起を含む表面構造、複数パラメータの比較サンプル、機能評価用モデルの造形をご検討中の場合は、図面、3Dデータ、目標寸法、評価条件をもとに、適した造形方法をご提案いたします。
参考論文
Zhang J., Yang H., Cai J., et al. “Water-proofing mechanism of coupling structures observed in ladybird elytra and its bionic application.” Droplet, 2025.
Yan Z., Kong Z., Tang Y., et al. “A Bioinspired Micro-Grooved Structure for Low Snow Adhesion and Effective Snow-Shedding.” Advanced Materials, 2025.