【目次】
1. 液体方向制御における研究課題
2. 製造上の難点|三次元キャピラリーラチェットをどう再現するか
3. BMFのPµSL技術によるALIS試作
4. 検証結果|表面張力の違いに応じた液体方向制御を確認
5. PµSL精密3Dプリントが研究開発にもたらす価値
6. マイクロ流体・液体制御表面の試作でお困りの場合
マイクロ流体デバイス、化学反応、水回収、熱輸送、油水分離などの研究開発では、液体をどの方向へ、どの速度で、どのように移動させるかが重要な設計課題になります。従来は、表面の濡れ性、形状勾配、表面電荷、外部ポンプなどを利用して液体の移動を制御する方法が多く検討されてきました。
一方で、液体そのものの表面張力の違いを利用し、同じ表面構造上で異なる液体を別々の方向へ誘導できれば、マイクロ流体デバイスや機能性表面の設計自由度は大きく広がります。その実現には、単なる平面パターンではなく、液体の接触線を三次元的に制御できる微細構造が必要です。
本記事では、BMFのPµSL精密3Dプリント技術を活用し、ナンヨウスギ葉に着想を得た3Dキャピラリーラチェット構造を造形した研究事例を紹介します。本研究は、論文「Three-dimensional capillary ratchet-induced liquid directional steering」として、学術誌 Science に掲載されました。
図1:ナンヨウスギ葉に着想を得た三次元キャピラリーラチェット微細構造
液体方向制御における研究課題
液体は一般的に、表面エネルギーが低くなる方向へ移動します。そのため、従来の液体輸送表面では、濡れ性の勾配、表面形状の勾配、曲率差、ピン止め力の差など、表面側の設計によって流れる方向を決めることが多くありました。
しかし、このような設計では、同じ表面構造に対して液体の種類ごとに輸送方向を選択することは容易ではありません。特に、マイクロ流体デバイスや液滴制御表面では、水、アルコール、油、電解液など、表面張力の異なる液体を扱う場面が多くあります。液体の性質に応じて移動方向を制御できれば、無電源輸送、液体分離、流路切替、センサー表面などへの応用が期待できます。
研究チームは、ナンヨウスギ葉の表面に見られる周期的なラチェット構造に着目しました。この葉には、先端方向へ傾いた三次元構造が並んでおり、横方向と縦方向の二重リエントラント曲率を持っています。この構造が、液体の接触線を表面内だけでなく、表面外方向にも誘導する点が重要です。
製造上の難点|三次元キャピラリーラチェットをどう再現するか
本研究で必要とされたのは、単純な溝や突起ではなく、液体の濡れ広がりを三次元的に制御する3Dキャピラリーラチェット構造です。ALISと呼ばれる人工表面は、複数列のラチェットアレイで構成され、ピッチ、傾斜角、曲率半径、列間距離などが液体輸送挙動に直接影響します。
論文では、ラチェットのピッチは約750μm、傾斜角は約40度、高さは約800μm、列間幅は約1000μm、ラチェット間幅は約400μm、横方向および縦方向の曲率半径はそれぞれ約400μm、約650μmとされています。
このような構造は、従来の2D微細加工では表面内方向のパターン形成に限界があり、立体的な曲率や傾斜を同時に再現することが難しくなります。また、一般的な3Dプリントでは、数百μmスケールの曲面形状、規則的なアレイ、微細なリエントラント構造の再現性が不足する場合があります。
BMFのPµSL技術によるALIS試作
研究チームは、BMFのmicroArch S140を用いて、ナンヨウスギ葉に着想を得た人工表面ALISを造形しました。microArch S140は、10μmの光学解像度と±25μmの加工公差に対応する高精度3Dプリンターであり、マイクロスケール構造や精密部品の試作・検証に活用されています。
ALISは、複数列の3Dキャピラリーラチェット構造で構成され、ピッチ、傾斜角、曲率半径、列間距離などが液体の接触線や濡れ広がりに影響します。PµSL精密3Dプリントにより、こうした三次元的な傾斜・曲率・周期構造を持つ微細表面を作製できたことで、研究チームは表面張力の異なる液体を実際に流し、液体方向制御の挙動を比較検証できました。

図2:ナンヨウスギの葉とBMF microArch S140で造形したALIS微細構造
検証結果|表面張力の違いに応じた液体方向制御を確認
ナンヨウスギ葉および3Dプリントで作製したALIS上では、表面張力の違いに応じて液体の輸送方向が変化し、次のような結果が確認されました。
水とエタノールで反対方向の液体輸送を確認
エタノールはラチェットの傾斜方向へ、水はその反対方向へ移動しました。エタノール濃度によって輸送方向が変化
エタノール濃度10%以下では後方輸送、10%超から40%未満では双方向輸送、40%以上では前方輸送が主となりました。接触角の変化により輸送方向が反転
液体の接触角が約20度から約82度へ増加するにつれて、輸送方向は前方から後方へ反転し、その遷移領域は42±5度付近にあることが示されました。液体分離と毛細管上昇制御への応用可能性を実証
水と油の混合液では、それぞれが反対方向へ移動し、重力を使わない分離が確認されました。また、毛細管上昇では、対称構造表面の約6mmに対し、ALISでは約16mmまで上昇が促進されました。
これらの結果は、3Dキャピラリーラチェット構造により、液体の表面張力に応じて輸送方向を選択できることを示しています。マイクロ流体デバイス、液滴操作、油水分離、化学反応制御、熱輸送、センサー表面など、液体挙動を構造で制御したい研究開発にとって参考となる事例です。

図3:表面張力の違いによる液体輸送方向の変化
PµSL精密3Dプリントが研究開発にもたらす価値
この事例が示しているのは、BMFのPµSL技術が、機能性表面の研究開発において複雑な3D微細構造の試作と検証を支えられるという点です。
液体方向制御のような現象では、微細構造の形状差が機能に直接影響します。ラチェットの角度、ピッチ、曲率、列間距離が変われば、液体の接触線、ピン止め、濡れ広がりの経路も変化します。そのため、研究開発段階では、設計した微細構造を高い再現性で作製し、実験条件下で比較できることが重要です。
BMFのPµSL精密3Dプリント技術は、次のような用途に適しています。
マイクロ流体デバイス用の微細構造試作
液滴輸送・液体方向制御表面の機能評価
生物模倣表面、ラチェット構造、微細溝、突起アレイの造形
複数パラメータを変えた比較サンプル作製
金型作製前の設計検証
研究開発向けの少量・高精度プロトタイプ製作
マイクロ流体・液体制御表面の試作でお困りの場合
BMF Japanでは、PµSL精密3Dプリント技術を活用し、マイクロ流体デバイス、機能性表面、微細構造、精密部品、評価用プロトタイプの造形を支援しています。
液体の方向制御、毛細管現象、微細流路、液滴操作、表面張力を利用した機能性構造などをご検討中の場合は、図面、3Dデータ、目標寸法、評価条件をもとに、適した造形方法をご提案いたします。
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参考論文
Shile Feng, Pingan Zhu, Huanxi Zheng, Haiyang Zhan, Chen Chen, Jiaqian Li, Liqiu Wang, Xi Yao, Yahua Liu, Zuankai Wang. “Three-dimensional capillary ratchet-induced liquid directional steering.” Science, 373, 1344–1348, 2021.