【目次】
1. はじめに
2. マイクロ流路デバイス(マイクロ流路チップ)とは
3. マイクロ流路デバイスを使用するメリット
4. マイクロ流路デバイスの材質による特徴
5. マイクロ流路デバイスの選定ポイント
6. まとめ
はじめに
マイクロ流路デバイス(マイクロ流路チップ)は、微細な流路内で少量の液体や気体を制御し、混合・分離・反応・検出などを行うデバイスです。医療・生命科学、創薬、化学分析、環境計測など、幅広い分野で利用されています。
デバイスの性能は、流路の寸法や形状だけでなく、使用する材料にも左右されます。顕微鏡観察では透明性、薬液を扱う実験では耐薬品性、細胞培養では表面特性やガス透過性などが重要です。
本記事では、マイクロ流路デバイスの基本原理と用途を紹介し、ガラス、シリコン、PDMS、熱可塑性樹脂などの特徴と、使用条件に応じた材料の選び方を解説します。
マイクロ流路デバイス(マイクロ流路チップ)とは
ここではマイクロ流路デバイスの概要について解説します。

マイクロ流路デバイスの原理
マイクロ流路デバイスとは、樹脂・ガラス等を材質とする基板に、液体が流れる微細な流路(一般的に幅または深さ数µmから数百µm程度のもの)を形成した装置です。マイクロ流路チップまたはマイクロ流路機器とも呼ばれています。
マイクロ流路デバイスに用いられている技術が、マイクロ流体力学(マイクロフルイディクス/ microfluidics)です。マイクロ流体力学によって、マイクロ流路デバイス内の少量の流体をマイクロスケールの非常に狭い流路を通して移動させたり、マイクロ液体や液体中を流れる微粒子をマイクロスケールで混合したり、分流したりが可能になります。
マイクロ流路デバイスの用途
マイクロ流路デバイスはおもに医療分野の研究にて用いられていましたが、近年さまざまな分野にも応用されています。マイクロ流路デバイスの分野別におもな用途を以下にまとめました。
分野 | 用途 |
医薬・科学合成 | 新薬の開発、触媒の研究など |
医療・遺伝子・生命科学 | 治療、遺伝子解析、細胞の分析、分離、計測、医療診断、細胞分析など |
自動車・機械 | 基礎技術の研究、開発など |
環境・エネルギー | 水質の分析、土壌モニタリング、微生物の検出、エネルギーの変換 |
食品 | 食品の衛生管理など |
また、臓器(オルガン)の持つ生体機能を流路で表現できる「オルガン オン チップ」や、集積化した複数のオルガンオンチップによって、生体システム全体を再現できる「ヒューマン オン チップ」など、用途によってマイクロ流路デバイスも細分化されています。
マイクロ流路デバイスを使用するメリット

マイクロ流路デバイスにはさまざまなメリットがあるため、医療をはじめとした幅広い分野に活用されています。マイクロ流路デバイスのおもなメリットを解説します。
研究や実験、分析の小型化
マイクロ流路デバイスによって、マイクロスケール空間を利用しての研究や実験、分析、観察などが実現可能です。
従来では大型の機器やスペース、作業が必要な科学的作業は、作業そのものが煩雑になったり、機器や人材をそろえるコストが発生したりといった問題がありました。マイクロ流路デバイスは抗体との反応や細胞分離・抽出、溶液の混合、精製、検出といった複雑な作業もマイクロスケール空間内で実現できます。
現在はソフトウェアの開発から、複雑な構造の流路、流れ、拡散の実現や、精度の高い予測も可能となりました。各科学的作業の小型化ができるため、研究や実験回数の増加も可能です。より気軽に科学的作業ができることで、多くのトライ&エラーが必要となる試薬や開発といった分野にも有効と言えるでしょう。
原料や廃液処理の減少、削減
マイクロスケール空間で科学的作業を行うことから、少ない原料でも精度の高い、反応の早い結果が得られるメリットがあります。高価なサンプル、有限のサンプル、希少な試薬の原料などを減量できます。さらに、作業後に発生する廃液の量も減らせるので、処理の負担やコストの削減にもつながるでしょう。
輸送の効率化
マイクロ流体デバイスは他のデバイスよりも小型であるため、デバイスそのものの持ち運びがしやすいこともメリットです。サンプルや検体としてそのまま送付もしやすいです。輸送の制限がかかりにくい、デバイスを移送したいときなどにも便利と言えます。輸送コストの削減にもつながるでしょう。
作業の効率化と高精度化
マイクロ流路デバイスによってマイクロスケール空間での科学的作業ができることは、作業そのものの効率化と高精度化にもつながります。流体が大量の場合は制御や調整、分離などの作業がしにくいですが、マイクロスケールでの流体にすることで制御がしやすくなります。そのため作業も効率化し、精度の高い結果も得やすいでしょう。
マイクロ流路デバイスの材質による特徴
マイクロ流路デバイスの材質によるさまざまな特徴を、以下にまとめました。
材質 | メリット | デメリット |
ガラス | ・さまざまな流体に対応 ・リサイクル性が高い | ・割れやすい ・柔軟性が低い ・量産性に劣る |
PDMS | ・柔軟性が高い ・光透過性が高い ・量産化可能 | ・耐薬性はほかの材質よりも低い |
樹脂 | ・種類やグレードが豊富 ・量産化可能 | ・初期費用がかかる ・樹脂のグレードの選択が重要 ・場合によっては使い捨てになる |
シリコン | ・柔軟性が高い ・耐久性が高い | ・透過性がない ・耐熱性が低い |
LTCC | ・物理的・化学的耐久性が高い ・レーザーや光による影響を受けない ・再利用可能 | ・光透過性がない |
マイクロ流路デバイスは、ガラスや樹脂などさまざまな材料が基板として採用されています。そして基板の材質によってマイクロ流路デバイスの得意とするところなど特徴が異なるため、取り扱う流体の種類や用途に応じて適切な材質を選ぶことが重要です。
基板の材質ごとのマイクロ流路デバイスの特徴を以下に解説します。
ガラス
石英ガラスやホウケイ酸ガラスは、透明性や寸法安定性が求められるマイクロ流路に利用されています。多くの薬液に対して良好な耐性を示しますが、薬品の種類や濃度、温度に応じた確認が必要です。硬く脆い材料のため、加工・接合方法や取り扱いも考慮します。
シリコン
シリコンは、半導体・MEMS分野で広く使用される高剛性の材料です。フォトリソグラフィーやエッチングにより、精密な流路やセンサー構造を形成できます。一方、可視光を透過しないため、流路内部を光学観察する場合は、ガラスなどとの接合を含めて構造を検討します。
PDMS
PDMS(ポリジメチルシロキサン)は、透明性、柔軟性、ガス透過性を持つシリコーン系エラストマーです。マスターにPDMSを流し込んで硬化・剥離し、基板に接合するソフトリソグラフィーで広く使用されています。
柔軟性を生かしたマイクロバルブにも利用される一方、特定の有機溶媒による膨潤、疎水性低分子の吸収、タンパク質などの表面吸着が実験結果に影響する場合があります。使用する試薬と観察条件に応じた評価が必要です。
詳しくは、PDMSとは?特徴・用途とPDMSデバイスの製作方法をご覧ください。
下記動画は、BMFの可溶性樹脂とPDMSの転写プロセスを示しています。
熱可塑性樹脂
光硬化性樹脂
光硬化性樹脂は、SLA、DLP、PµSLなどの光造形方式で使用されます。微細な分岐や混合構造を含む部品の直接造形、またはPDMS転写用モールドの製作に活用できます。透明性、耐薬品性、吸水性、後硬化条件などは、使用する材料ごとに確認します。
LTCC
LTCC(Low-temperature co-fired ceramics)とは、シート積層で形成されるセラミック基板のことです。
物理的・化学的な耐久性が高く、流路の構造や内部配線が形成しやすい特徴があります。レーザーや光による影響も受けません。洗浄や滅菌処理での再利用も可能です。
ただし、シリコンと同じく光透過性はありません。
マイクロ流路デバイスの選定ポイント
マイクロ流路デバイスの製造は、さまざまなメーカーが行っています。ガラスや樹脂などの素材や製品を取り扱うメーカーのほか、金型による樹脂製品製造メーカーなども参入しています。マイクロ流路デバイスの製造を検討しているときに、踏まえておきたいポイントを解説します。
用途に応じた材質を選定する
マイクロ流路デバイスは、基盤としてさまざまな材質が採用されており、材質によって得意とする作業内容や特徴が異なります。マイクロ流路デバイスの用途に応じた材質を、まずは選定することが重要です。
詳細は3章を確認してください。
製作方法を選定する
マイクロ流路の製作には、フォトリソグラフィー、ソフトリソグラフィー、切削、レーザー加工、射出成形、高精度3Dプリントなどの方法があります。平面的な流路を繰り返し複製する場合と、立体的な流路を少量試作する場合では、適した方法が異なります。
複雑な分岐や立体的な内部構造を少量試作する場合は、高精度3Dプリントも選択肢になります。ただし、実際の適用可否は、流路寸法、流路長、材料、造形方向、未硬化樹脂の排出・洗浄方法などによって異なります。

図:BMFのPµSL技術で造形した微細流路のサンプル
BMFのmicroArch®シリーズによる微細流路の造形例は、以下の動画でご覧いただけます。
造形事例:蛍光検出マイクロ流体
各加工法の特徴や、マイクロ流体デバイスの製作に3Dプリントを活用する方法については、マイクロ流体デバイスの製作方法と3Dプリントの活用例をご覧ください。
まとめ
マイクロ流路デバイスの材料は、透明性や耐薬品性だけでなく、試料との相互作用、観察方法、製作方法、使用環境を踏まえて選ぶ必要があります。まず実験条件と評価項目を整理し、その後に材料と製作方法を比較することが重要です。
BMF Japanでは、PµSL技術を活用した微細構造部品の造形、PDMS転写用モールド、装置・材料の適用についてご相談を承っています。
