【目次】
1. 気管支の奥へ観察機器と生検針を届ける
2. 中央チャネルとテンドン経路を集約したスペーサーディスク
3. 同心配置に求められるType-1ディスクの高精度造形
4. 4つの目標への到達と生検針の展開を確認
5. 既製部品とカスタム微細部品を組み合わせる開発手法
6. 微細部品の造形可否をご相談ください
肺の末梢にある病変を観察し、生検を行うには、細く分岐した気管支に沿って進み、目的位置まで器具を届けなければなりません。リーズ大学では、このような気道内で柔軟に向きを変えられるロボットとして、らせんばねと3Dプリント製スペーサーディスクからなるモジュール型のテンドン(腱)駆動コンティニュアムロボットが開発されました。
開発上の課題の一つが、ロボット内部の限られた空間に、処置具を通す中央チャネルと駆動用のテンドン経路を確保することでした。そこで、中央チャネルやテンドンガイド孔、ばねに固定するための外周形状を備えたType-1スペーサーディスクを設計し、その製作にBMFの高精度3DプリンターmicroArch® S140を使用しています。
このディスクを組み込んだ試作機は、患者CTデータをもとに作製した気管支ファントム内で、4つの目標すべてに到達しました。各目標への到達後には、生検針の展開も確認され、目標位置での平均位置誤差は2.35 mmでした。
この研究成果は、“Spring-Based Tendon-Driven Continuum Robots for Compact Modular Designs in Endoluminal Applications”というタイトルで、IEEE/ASME Transactions on Mechatronicsに掲載されています。

図1 気管支内での利用を想定したコンティニュアムロボットと2セグメント構造
出典:Ozdemir et al., IEEE/ASME Transactions on Mechatronics, 2026.
気管支の奥へ観察機器と生検針を届ける
気管支は奥へ進むほど細くなり、複雑に分岐します。研究チームは、観察・照明・生検に必要な機能を小さな断面内に収めながら、用途に応じて構成を変更できるロボットを目指しました。
試作機では、全長140 mm、外径4.2 mmのらせんばねを柔軟な骨格とし、その内側と外側にスペーサーディスクを配置しています。ディスク位置やセグメント構成を調整できるため、ロボット全体を作り直すことなく構成を変更できます。
中央チャネルとテンドン経路を集約したスペーサーディスク
Type-1スペーサーディスクは、単にばねを支えるリングではありません。外径3.7 mm、長さ5 mmの部品に、直径2.4 mmの中央作業チャネル、4本の直径0.2 mm NiTiテンドンを通すガイド孔、ばねの内側へ固定するための外周溝が組み込まれています。
中央チャネルはカメラ、照明、生検針などを通すための作業空間です。その周囲に配置したテンドンを引くことで、ロボットを湾曲させます。Type-1ディスクは外周形状をばねに合わせてねじ込むことで位置を保持し、接着剤や追加の締結部品を使わずに配置を調整できる自己固定式の構造です。
製造上のポイントは、個々の微細形状を作ることだけではありません。中央チャネル、テンドンガイド孔、ばねとかみ合う外周形状の位置関係を保ち、Type-2ディスクとの同心配置が成立する寸法条件で製作する必要がありました。形状や位置関係が設計条件から外れれば、ばねへの組み込みやテンドンの通過、中央チャネルの空間に影響する可能性があります。

図2 らせんばねとType-1スペーサーディスクの自己固定構造
出典:Ozdemir et al., IEEE/ASME Transactions on Mechatronics, 2026.
同心配置に求められるType-1ディスクの高精度造形
研究チームは、Type-2ディスクとの同心配置に求められる、より厳しい寸法条件を持つ10個のType-1スペーサーディスクを、BMFのmicroArch® S140で造形しました。
microArch S140は、BMF独自のPµSL(Projection Micro Stereolithography)技術を採用し、10 µmの光学解像度を備えた高精度3Dプリンターです。本研究では、中央チャネル、4本のテンドンガイド孔、ばねとかみ合う外周形状を一体で備えたType-1ディスクの製作に用いられました。
造形したType-1ディスクは、10 mm間隔でばねの内側へ順に配置し、4本のNiTiテンドンをガイド孔へ通して遠位側セグメントを構成しました。近位側には、別のSLA装置で造形したType-2外側ディスクと3本のテンドンを追加し、Type-1ディスクと同心状に組み合わせて2つ目のセグメントを構成しています。

図3 Type-1/Type-2スペーサーディスクを組み合わせた2セグメント構造
出典:Ozdemir et al., IEEE/ASME Transactions on Mechatronics, 2026.
4つの目標への到達と生検針の展開を確認
研究チームは、完成した2セグメント型コンティニュアムロボットについて、湾曲動作と気管支モデル内でのナビゲーション性能を評価しました。主な結果は以下の通りです。
l 最大先端角度310°:最大テンドン張力20 Nの条件で、2セグメント試作機の湾曲動作を評価。
l 4つの目標位置すべてに到達:患者由来CTデータから作製した気管支モデル内でナビゲーションを実施。
l 目標位置に対する平均位置誤差2.35 mm:4つの目標について、ロボット先端の到達位置を評価。
l 各目標への到達後に生検針を展開:中央作業チャネルを通じて、生検針を安定して展開できることを確認。

図4 患者由来CTデータをもとにした気管支モデルでのナビゲーション試験
出典:Ozdemir et al., IEEE/ASME Transactions on Mechatronics, 2026.
既製部品とカスタム微細部品を組み合わせる開発手法
医療ロボット、内視鏡、カテーテル、研究用マイクロロボットなどでは、限られた空間にチャネル、配線、嵌合部、位置決め構造を組み込む必要があります。外形を小さくするだけでなく、微細形状同士の位置関係や周辺部品との組み立てまで考慮することが重要です。
本事例では、既製のらせんばねと用途の異なる3Dプリント部品を組み合わせ、より厳しい寸法条件が求められるType-1ディスクにmicroArch S140を用いています。必要な部品に適した製造方法を選ぶという点でも、類似する小型機器の試作に参考となる事例です。
関連技術については、PµSLによる高精度マイクロ3Dプリント技術と医療分野における3Dプリンター技術もご覧ください。
微細部品の造形可否をご相談ください
中央チャネル、微細孔、薄肉部、嵌合形状などを持つ小型部品について、設計データや要求仕様をもとに、PµSLによる造形可否や適切な製造方法をご相談いただけます。
参考論文
Burak Ozdemir, Pietro Valdastri, James H. Chandler, “Spring-Based Tendon-Driven Continuum Robots for Compact Modular Designs in Endoluminal Applications,” IEEE/ASME Transactions on Mechatronics, published online, 2026.
DOI: 10.1109/TMECH.2026.3694222