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3Dプリント光学デバイス:多焦点マイクロレンズアレイと円錐形光ファイバーアレイ

公開日: 2025.10.03

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3Dプリント光学デバイス

多焦点マイクロレンズアレイ

円錐形光ファイバーアレイ

【目次】

  • 1. 多焦点マイクロレンズアレイ(Multi-focus Microlens Array)

  • 2. ガンマ線イメージング用ダブルテーパード光ファイバーアレイ(Double-tapered Optical Fiber Arrays for Gamma-ray Imaging)

  • 3. まとめ

近年、産業計測、LiDAR、航空宇宙、ライフサイエンスといった分野の急速な発展により、精密光学部品への需要はますます拡大しています。しかし、従来の製造技術は、工程が複雑で時間がかかり、コストも高いうえに設計の自由度も限られているため、軽量化・集積化・カスタマイズ化といった現代の光学システムのニーズに十分応えることは困難です。

一方、3Dプリンティング技術と材料技術の進歩により、高精度3Dプリンティング技術は、光学部品製造に革新的なブレークスルーをもたらしました。迅速な成形、高い設計自由度、複雑構造の実現力により、光学デバイスの製造効率を大幅に向上させると同時に、高性能化、個別化、小型化を力強く推進しています。本記事では、BMFのPμSL技術を活用した多焦点マイクロレンズアレイと円錐形光ファイバーアレイの製作事例および応用についてご紹介します。

BMF PμSL技術

図1 BMFの3Dプリンターで製作されたマイクロニードルアレイ

1. 多焦点マイクロレンズアレイ(Multi-focus Microlens Array)

研究内容

マイクロレンズアレイは、マイクロ〜サブミリメートルサイズのレンズを規則的に配列した光学素子で、立体ディスプレイ、光の均一化、ビーム整形、三次元イメージングなど幅広い分野で利用されています。単一レンズと比べて、入射光の強度や角度など多様な情報を取得できる点が特長です。

集積型イメージングシステムでは、マイクロレンズアレイが異なる角度からサブイメージを捉え、それを再構成することで擬似的な立体視を可能にします。また、ライトフィールド撮影においては、1回の露光で空間情報と方向情報を同時に取得できるため、3D物体に対してピント合わせを行う必要がありません。

しかし、従来のマイクロレンズアレイはすべてのレンズが同一焦点距離であるため、被写界深度が浅く、深度認識に限界がありました。その結果、異なる距離にある対象を同時に鮮明に撮影することが困難でした。

この課題を解決するため、Dawei Zhangらの研究グループは、3DプリンティングとPDMS転写技術を組み合わせた新しい製造手法を提案しました。この方法により、多焦点を持つマイクロレンズアレイを迅速かつ低コストで効率的に作製でき、異なる距離にある物体を鮮明に成像することが可能となりました。

この関連研究成果は、光学専門誌『Optics Express』に “Fabrication of uniform-aperture multi-focus microlens array by curving microfluid in the microholes with inclined walls” というタイトルで発表されています。

図2 多焦点マイクロレンズアレイの設計及び製造プロセス(PμSL+PDMS molding).png

図2 多焦点マイクロレンズアレイの設計及び製造プロセス(PμSL+PDMS molding)


図2に示すように、まずBMFのPμSL技術を用いて、孔壁の傾斜角度が異なる微小孔アレイを効率的かつ一体的に造形しました。次に、スピンコーティングによって各微小孔に光硬化性樹脂を残し、異なる曲率をもつ液面を形成しました。最後にPDMS転写を行うことで、多焦点マイクロレンズアレイを得ることができます。従来の加工法でこのような多焦点レンズアレイを直接製作する場合、加工時間が長く、コストも高く、さらに精度・均一性・大面積加工の点で大きな課題がありました。


図3 3Dプリントによる微小孔アレイと多焦点マイクロレンズアレイ.png

図3 3Dプリントによる微小孔アレイと多焦点マイクロレンズアレイ


図3に示す微小孔アレイは六角形配置を採用しています。中央の孔は垂直壁(傾斜角0°)、外側に向かうにつれて孔壁の傾斜角が徐々に増加し、最大38°となります。全ての孔径は500 μmで、隣接孔の間隔は100 μm、合計169個の孔で構成されています。孔壁の傾斜角を調整することで樹脂の曲率を制御し、レンズユニットの孔径を揃えながら焦点距離を変えることに成功しました。これにより、従来技術では避けられなかった「焦点距離と孔径のトレードオフ」を解決しました。

多焦点マイクロレンズアレイ

図4 多焦点マイクロレンズアレイの撮像原理及び撮影画像


PDMS転写により、均一な孔径を持ちながら異なる焦点距離を備えた凸レンズアレイが完成しました。焦点距離は635〜970 μmの範囲にわたり、14.3 mmから45.5 mmの距離にある物体を鮮明に像結することが可能です(図4)。本手法では、孔壁の傾斜角と孔径を独立に制御できるため、焦点距離と開口径を柔軟に設計でき、大きな被写界深度が求められる撮影や奥行き認識用途に有効です。

研究意義

本研究は、3DプリントとPDMS転写技術に基づき、均一な開口径と異なる焦点距離を持つ多焦点マイクロレンズアレイの作製に成功しました。このアレイにより、14.3~45.5 mmの範囲にある物体を同時に鮮明に結像できます。

また、本手法はレンズの焦点距離と開口径を独立して制御可能で、アレイの配置も柔軟に設計できるため、大深度範囲の撮像や広範囲深度感知アプリケーションに対して、効率的で低コストなソリューションを提供します。

原文リンクは「多焦点マイクロレンズアレイ(Multi-focus Microlens Array)」↗


2. ガンマ線イメージング用ダブルテーパード光ファイバーアレイ(Double-tapered Optical Fiber Arrays for Gamma-ray Imaging)

研究内容

高エネルギー放射線(X線やガンマ線など)は、その強い透過性、蛍光効果、感光効果により、医学診断(X線撮影、CTスキャンなど)、工業検査、天文観測、科学研究など幅広い分野で検出とイメージング手段として用いられています。しかし、従来の厚層スシンチレータ(scintillator)材料では、光子散乱(photon scattering)や減衰(attenuation)が発生し、光出力効率の低下や空間分解能の低下を招く問題があります。

近年、ペロブスカイトナノスシンチレータ(perovskite nanoscintillators)は、高い量子効率、短い発光寿命、優れたX線吸収能力、低コストの結晶作製法などの利点から、X線検出・イメージングに広く応用されています。しかし、ペロブスカイトナノシンチレーターには矛盾点があります。高エネルギー放射線を効率的に吸収するには、スシンチレータ層が数mm〜cmの厚さである必要がありますが、この厚さでは横方向の光散乱(lateral photon scattering)や固有の自己吸収(inherent self-absorption)が発生し、光透過率や空間分解能が制限されます。

この課題を解決するため、シンガポール国立大学(NUS)のXiaogang Liuらは、放射線イメージング性能を向上させるピクセル化ダブルテーパード光ファイバーアレイ(Pixelated double-tapered optical fiber arrays)を開発しました。この設計により、スシンチレータ層で発生した光子を効率的に吸収・伝達し、材料内部の散乱や自己吸収を低減することで、放射線イメージングの空間分解能と性能を効果的に向上させました。

関連研究成果は、『Nature Photonics』誌に「A double-tapered fibre array for pixel-dense gamma-ray imaging」というタイトルでに掲載されています。

ダブルテーパード光ファイバーアレイ.png

図5 ダブルテーパード光ファイバーアレイのパラメーター最適化および製造プロセス


光収集効率と伝送効率を最大限に高めるため、光収集性能を評価し、円錐形光ファイバーの幾何形状を最適化しました。最適化後の二重円錐光ファイバーの主要幾何パラメータは、上部円錐角7°、下部円錐角4°、基部直径20μm、高さ120μmでした。光ファイバーの幾何形状を正確に実現するため、BMF のPμSL技術(3Dプリンタ―microArch® S130)を用いて高精度一体成形しました。次に、転写技術で柔軟な微細孔アレイを作製し、再転写して微細針状エポキシ樹脂アレイを得ました。PDMSで被覆後、微光ファイバーアレイを形成し、最後にペレットコーティングでペロブスカイトナノ結晶蛍光材料を塗布することで、光ファイバーアレイを埋め込んだ平面シンチレーター薄膜を得ました。製造プロセスを図5に示す。

図6 ダブルテーパード光ファイバーアレイの光学特性(光子回収・高分解能X線イメージング用).png

図6 ダブルテーパード光ファイバーアレイの光学特性(光子回収・高分解能X線イメージング用)


ペロブスカイトナノ結晶はシンチレータとして機能し、小さなストークスシフトと高い量子収率を示します。そのため、多数の発光フォトンが再吸収・反射されやすいという特徴があります。しかし、内部量子効率が95%の場合、このダブルテーパード光ファイバーアレイ構造は全波長の発光フォトンの45%以上を効率的に収集・伝送可能です。さらに、この構造を埋め込んだペロブスカイトシンチレータ膜を用いてPCB基板上の集積回路をX線撮影すると、高品質なイメージングが可能となり、25 μm幅の配線まで明瞭に可視化できました(図6)。

図7ダブルテーパード光ファイバーアレイ埋め込み型ペロブスカイトシンチレータ膜のγ線イメージング.png

図7ダブルテーパード光ファイバーアレイ埋め込み型ペロブスカイトシンチレータ膜のγ線イメージング


加えて、ペロブスカイトシンチレータはガンマ線の高い吸収能も持っています。研究チームは厚さ4 mmのダブルテーパード光ファイバーアレイ埋め込み型ペロブスカイトシンチレータ膜を作製し、臨床で用いられる高エネルギーγ線スポットパターンによる成像を行いました。その結果、6 MeV放射線下では、埋め込み型シンチレータ膜の出力信号が純ペロブスカイト膜の1000倍以上に達し、6 MeVおよび10 MeVのγ線照射下でも成像が可能であることが確認されました。さらに、基部直径250 μm・約1万本の光ファイバーを含む厚さ4 mmのシンチレータ膜では、タングステンマスクを用いた6 MeV γ線成像において、300 μmサイズの構造を明確に識別できました(図7 f–h)。

研究意義

本研究は、ダブルテーパード光ファイバーアレイとペロブスカイトナノ結晶シンチレータを組み合わせる設計により、厚膜シンチレータ層での光取り出し効率を大幅に向上させました。これにより、従来両立が困難だった高エネルギー放射線検出における感度と空間分解能の矛盾を克服し、X線およびγ線に対して高感度かつ高品質な成像を実現しました。

さらに、開発された半球型検出器は、広視野・高感度を兼ね備え、シリコン技術との互換性も高く、柔軟デバイスとしての応用可能性を持ちます。これにより、医療イメージング、産業検査、科学研究分野において、高性能かつ低コストの放射線検出・成像ソリューションを提供することが期待されます。

原文リンク:「ガンマ線イメージング用ダブルテーパード光ファイバーアレイ」


3. まとめ

3Dプリンティング技術は、光学デバイスの迅速なプロトタイプ開発、カスタム生産、複雑構造の実現を可能にする重要なツールとして位置付けられています。これにより、光学システムの個別化・集積化・小型化を力強く推進しています。

一方で、現状ではプリント精度や材料性能に制約があり、特にナノスケールの光学素子を量産するうえで、従来の高精度加工技術を完全に代替するには課題が残っています。

しかし、マルチマテリアル造形、微細加工技術、AI設計アルゴリズムなどの進展により、今後は精度・速度・材料適応性の面で飛躍的な進化が期待されます。これにより光学分野における3Dプリンティングの活用はさらに深まり、次世代光学デバイスのイノベーションと産業化を支える中核技術となるでしょう。

BMF の PμSL 技術を活用した、より多くの応用事例をご紹介しています。

【目次】

  • 1. 多焦点マイクロレンズアレイ(Multi-focus Microlens Array)

  • 2. ガンマ線イメージング用ダブルテーパード光ファイバーアレイ(Double-tapered Optical Fiber Arrays for Gamma-ray Imaging)

  • 3. まとめ

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