【目次】
1. 多重解析によるCOVID-19検査の高度化
2. 微細チャンネル構造を高精度で再現
3. 製作効率とコスト削減の両立
4. PμSL技術で広がる研究の可能性
5. まとめ
マイクロ流路多重化モデルは、研究者が生体プロセス、病原体、薬理学的反応などを評価する際に、タンパク質バイオマーカーや生物学的特性を解析するための重要なツールです。
微量液体を扱うマイクロ流路は、臨床診断用のポイント・オブ・ケア(POC)デバイスにも広く応用されており、がんやCOVID-19などの高度な診断において、複数のバイオマーカーを定量的に測定する多重解析を可能にしています。
本ケーススタディでは、カリフォルニア大学バークレー校の学生2名が、BMFの超精密3Dプリント技術を活用し、COVID-19検査用のマイクロ流体モデルをどのように開発したかをご紹介します。
1. 多重解析によるCOVID-19検査の高度化
カリフォルニア大学バークレー校のChristos Adamopoulos氏とAsmaysinh Gharia氏は、COVID-19抑制研究に貢献するため、複数の検査を同時に実施できるマイクロ流体デバイスの開発を目指していました。
POC機器にはセンサーが搭載され、感染者に対して抗体検査を行うことが可能ですが、新型ウイルス拡散の抑制には、RNAウイルス解析を通じてより早期のウイルス検出が不可欠です。
マイクロ流体装置を用いれば、1つのチップ上で複数の種類の検査を行うことができます。たとえば、ある流路で抗体を検出し、別の流路ではウイルスRNAを解析するなど、複数の解析プロセスを統合できます。
こうしたラボ・オン・チップ(LOC)技術により、自動化とハイスループットスクリーニングを実現し、迅速かつ大規模な検査体制を構築することが可能になります。
しかし従来のフォトリソグラフィー製法では、構造設計や製造の制約が多く、複雑なデバイスの開発には限界がありました。
2. 微細チャンネル構造を高精度で再現
これまでバークレー校ではフォトリソグラフィーによる製作を行っていましたが、複雑なアライメントや多重露光といった手間のかかる工程が必要であり、同一高さ・同一平面上の形状しか作ることができませんでした。
より高精度なモデルを求めていた彼らは、BMFのPμSL(Projection Micro Stereolithography)技術が持つ10µmレベルの解像度と厳密な寸法精度に着目。実際にmicroArch® S140を用いてテストパーツを製作したところ、50µm幅の流路を高精度に再現でき、積層ごとの位置合わせも極めて正確に実現できることが確認されました。
その結果、これまで5本だったチャンネルを同一モデル内に8本配置することが可能となり、設計自由度を高めながらデバイスの複雑性を向上。今後は20本の流路を備えたチップ設計も視野に入れています。
3. 製作効率とコスト削減の両立
Christos氏は次のように述べています:
「私たちの設計では、フォトニクス、マイクロ流路、電子回路の統合が重要です。既存のフォトニクスとエレクトロニクスを利用しながらマイクロ流路をカスタマイズできることで、1チップあたり数万ドル規模のコスト削減を実現できました。BMFのマイクロ3Dプリント技術は、試作から量産までのプロセスを大幅に効率化し、迅速で低コストな開発サイクルを支えています。」
従来、フォトリソグラフィーではシャドウマスク製作に1週間以上を要していましたが、BMFのPμSL技術を用いることで、数日で同等の精密モデルを製作可能になりました。後処理(洗浄・二次硬化)は必要ですが、全体として製作期間を大幅に短縮できています。
4. PμSL技術で広がる研究の可能性
現在、バークレー校の研究チームは、外部への金型製作依頼をやめ、学内で直接3Dプリントによる金型製作を実施しています。
これにより、設計から実験までのサイクルを短縮し、時間・コストの両面で効率化を実現。4つだった計測ポイントを20ポイントへ増加させることで、データスループットと検査精度の向上にも成功しました。
BMFのPμSL技術によって、複数部品を一体化したサンドイッチ構造のツールも造形可能となり、工程数や組み立ての複雑さを軽減。研究者が求める「微細で複雑、かつ再現性の高い」マイクロ流体デバイス設計を実現しています。
5. まとめ
BMFの超精密3Dプリント技術は、学術研究における新しい発想の具現化を支え、医療・バイオ分野におけるマイクロ流体デバイス開発を加速しています。
このバークレー校の事例は、PμSL技術が研究現場にもたらすスピード・柔軟性・精度のすべてを体現しています。