【目次】
1. 間質液グルコース測定におけるサンプリング課題
2. 複雑なマイクロニードル形状を再現する製造課題
3. PµSL精密3Dプリントによる高精度マスターの製作
4. 性能評価:ISF採取とグルコース応答を確認
5. まとめ:マイクロニードル研究開発におけるBMF技術の価値
糖尿病管理をはじめとするヘルスケア分野では、血液に依存しない低侵襲な生体情報モニタリンググ術への関心が高まっています。なかでも、皮膚組織の細胞間に存在する間質液(Interstitial Fluid:ISF)は、血液中のバイオマーカーと相関する情報を含むことから、ポイント・オブ・ケア検査や日常的なモニタリングへの応用が期待されています。
一方で、ISFを安定的に採取し、微量サンプルから目的成分を高感度に検出するには、皮膚への挿入性、採取量、マイクロニードル形状の再現性、センサーとの統合性といった課題があります。
本事例では、University of Southern QueenslandのKhaled Mohammed Saifullah氏、およびUniversity of the Sunshine CoastのZahra Faraji Rad氏らの研究チームによる、マイクロニードル型グルコースバイオセンサーの研究を紹介します。
同研究では、BMFのPµSL技術(精密マイクロ3Dプリント技術)を用いて、螺旋状構造とテーパー状先端を持つマイクロニードル母型を製作。PDMSマイクロモールディングにより膨潤型マイクロニードルアレイへ複製し、間質液(Interstitial Fluid:ISF)中グルコース検出プラットフォームに応用されました。
本研究成果は、「Single-use microneedle biosensor for detecting clinically relevant glucose in interstitial fluid」として、Biosensors and Bioelectronics誌に掲載されています。

図1 膨潤型マイクロニードルによるISF採取とグルコース検出のワークフロー、およびマイクロニードル構造の評価
出典:Saifullah and Faraji Rad, Biosensors and Bioelectronics, 2026, CC BY 4.0
1. 間質液グルコース測定におけるサンプリング課題
従来の血糖測定では、指先穿刺による血液採取が一般的に用いられてきました。しかし、頻回測定が必要な場面では、痛みやサンプル採取の負担が課題になります。ISFは低侵襲なバイオマーカー検出のサンプル源として期待されますが、採取できる量が限られるため、短時間で十分な量を回収し、微量サンプルを安定して測定する技術が必要です。
2. 複雑なマイクロニードル形状を再現する製造課題
ISF採取に用いられるマイクロニードルでは、皮膚への挿入性、サンプル採取効率、挿入時の安定性が重要です。本研究で用いられたマイクロニードルは、螺旋状のリッジ構造とテーパー状の先端を備えた複雑な三次元形状を持っています。
螺旋状構造は、皮膚との穏やかなインターロックを促し、挿入時およびISF採取時の安定性向上に寄与する設計です。このような微細形状を高い再現性で作製するには、先端形状、表面品質、アレイ構造を精密に制御できる製造技術が必要になります。
3. PµSL精密3Dプリントによる高精度マスターの製作
研究チームは、螺旋状構造とテーパー状先端を持つマイクロニードル母型を製作するため、BMFの高精度3Dプリンター「microArch® S240」を採用しました。
本事例におけるBMF技術の役割は、最終デバイスを直接造形することではなく、PDMS転写に用いる高精度な「母型(マスター)」を製作することにあります。
BMFのPµSL技術は、以下の点で本研究を支えました。
複雑形状の再現:螺旋状リッジとテーパー状先端を持つマイクロニードル形状を高精度に造形。
PDMS転写用マスターとして活用:3Dプリント品を母型として使用し、膨潤型マイクロニードルアレイを複製。
機能性材料への応用:母型を介することで、ハイドロゲルなど直接3Dプリントが難しい材料にも対応。
このアプローチにより、3Dプリントによる設計自由度と、PDMSマイクロモールディングによる材料選択の自由度を組み合わせることが可能になります。
4. 性能評価:ISF採取とグルコース応答を確認
PDMS転写により複製された膨潤型マイクロニードルアレイは、形状、機械的強度、ISF採取性能、グルコース検出性能の観点から評価されました。
主な結果は以下の通りです。
微細構造を確認:SEM観察により、螺旋状リッジとテーパー状先端を持つ形状を確認。
挿入時の安定性を確認:皮膚挿入に必要とされる力を上回る破断強度を保持。
5分以内に5 µL超のISFを採取:ex vivo試験で、6.55 ± 0.47 µL、100 Hz振動条件で7.06 ± 0.44 µLを報告。
グルコース応答を確認:SPE(スクリーン印刷電極)と組み合わせ、0.5〜15 mMの範囲で良好な応答を確認。
in vitro / ex vivoで線形性を確認:in vitroでR² = 0.989、ex vivoでR² = 0.978の相関が報告されています。
これらの結果は、PµSLで作製した母型が、膨潤型マイクロニードルアレイの複製とISFベースのグルコース検出プラットフォーム開発に有効であることを示しています。なお、本研究は研究段階のデバイス評価であり、臨床診断用製品としての有効性を示すものではありません。

図2 SPEセンサーの構成とグルコース検出性能の評価
出典:Saifullah and Faraji Rad, Biosensors and Bioelectronics, 2026, CC BY 4.0

図3 in vitroおよびex vivo条件におけるマイクロニードル型グルコースバイオセンサーの評価結果
出典:Saifullah and Faraji Rad, Biosensors and Bioelectronics, 2026, CC BY 4.0
5. まとめ:マイクロニードル研究開発におけるBMF技術の価値
本研究は、BMFのPµSL技術(精密マイクロ3Dプリント技術)が、低侵襲バイオセンシングデバイスの研究開発において、複雑なマイクロニードル母型の製作に有効であることを示す事例です。形状そのものが性能に関わるマイクロニードルでは、先端形状、アレイ構造、表面形状を高い再現性で作製できる母型技術が重要です。
BMF Japanでは、マイクロニードル、マイクロ流体デバイス、バイオメディカル部品、精密試作、モールディング用母型製作に向けて、高精度3Dプリンターと微細加工ソリューションを提供しています。微細構造デバイスの試作やPDMS転写用母型の製作をご検討の方は、お問い合わせください。
【参考論文】